熊本には、季節や行事に合わせた暮らし方が県内各地に多く残っており、その暮らし方に合わせた工芸品が今も日々の暮らしの中で使われています。
「くらしと工芸」では、熊本の暮らしの中で培われてきた工芸品を、単なる消耗品ではなく、長く付き合える「愛用品」として、コラム形式でシリーズで紹介していきます。
「くらしと工芸」vol.1
熊本のさまざまな魅力あるヒト・モノ・コトを発信し続けるフリーライターの木下真弓さんが、熊本で培われてきた「くらしの道具」の数々を紹介します。
「ときを贈る」
6月10日は「時の記念日(ときのきねんび)」。「日本書紀」に記される、671年の“日本で初めて時計が鐘鼓を打った日”に由来します。時間の大切さを尊重する意識を広め、生活の改善合理化を進めることを目的に1920年、国立天文台(当時の東京天文台)などによって制定されました。
「時間はすべての人に平等」という名言もありますが、一方で、平等にもたらされた時間をどのように使うかで、その中身は大きく変わります。そこで今回は、「ときを贈る」をテーマに、心豊かな時間を叶えるアイテムをご紹介しましょう。
「読む」時間
座り心地のいい椅子に腰かけて、お気に入りの本を開く。電子書籍をはじめ、「読む」ということのバリエーションが増えた今だからこそあえて、アナログな“紙の本”を開く時間をとってみるのもいいものです。紙の質感、インクの匂い、活字ならではのぬくもりやページをめくる音。ひとつひとつが五感をとらえ、文字をたどるだけでは得ることのできない満足を得られるはずです。ちなみに、デジタルな読書と、アナログな読書の違いについては、世界中でさまざまな研究が行われています。紙をめくるという動作を伴うアナログな読書のほうが記憶として脳に定着しやすくなるという研究結果のほか、認識力の差なども指摘されています。
せっかく、リアルな本を手に取るのであれば、風合いのいいブックカバーや、センスのいいブックマーク(しおり)などを携えてみるのはいかがでしょう。たとえそれが就寝前のひとときでも、満員電車やオフィスの隙間時間であっても、手に取ってページを開くだけで本の世界に浸れるはずです。
野原れい子さんの草木染めのブックカバー(縦16cm×横22cm)/3,000円(税込)/野原れい子
松永淳子さんの肥後象がんのブックマーク(縦3.5cm×横3.5cm×高1cm)/22,680円(税込)/松永淳子(光季)
「愉しむ」時間
湯気とともに立ちのぼるコーヒーの香りは、至福の時間をもたらしてくれます。カフェインを含むことから、眠気覚ましのイメージも強いコーヒー。一方で、豆の選び方次第では、脳の働きを活性化するだけでなく、リラックス作用をもたらすこともできるといわれています。寛ぎのひとときにふさわしいコーヒー豆を選んだら、次は“淹れる”という行為自体を愉しんでみるのもいいでしょう。サーバーやドリッパーにこだわってみるのもひとつの手。揃いのカップもいいですが、異なる窯元のカップをいくつか集め、シーンや気分、ゲストに合わせて選んでみるのもおすすめです。
さらに、おいしいコーヒーに大切なのは、適温を保つこと。90度弱の湯で淹れると、コーヒー豆の持つ香りやコクなどをバランスよく引き出せます。陶器製のドリッパー&サーバーは保温力が高いため、事前に熱湯につけ、中までしっかり温めておくことでドリップ中の温度変化も防ぐことができます。コーヒーメーカーでは得られない、そのひと手間こそが、至福の時間の入口です。
福岡祥浩さんの黒コーヒードリッパー・サーバー(ドリッパー:口径10.5cm×高9.3cm、サーバー:口径8.8cm×高14cm)/セット8,640円(税込)/赤津焼 陶祥窯
長木實さんのコーヒーカップ(カップ: 口径7.5cm×高6.8cm、ソーサー:径14.5cm×高1.8cm)/3,610円(税込)/小代焼 松橋窯
岡部祐一さんのコーヒー碗(青)(カップ:口径7.7cm×高5.8cm、ソーサー:径14.5cm×高2cm)/2,200円(税込)/天草陶磁器 水の平焼
上野(あがの)浩之さんのカップ&ソーサー(カップ:口径7.5cm×高8cm、ソーサー:径15.1cm×高2.5cm)/24,840円(税込)/髙田(こうだ)焼 上野(あがの)窯
水の平焼 海鼠釉(なまこゆう)の小皿(径10.8cm×高2.4cm/1,100円(税込))/天草陶磁器 水の平焼
「嗜(たしな)む」時間
「絵てがみ」には、メールや写真とは異なる魅力があります。日々のちいさな感動や思いを文字にしたためたり、季節のスケッチにしてみたり。誰かに伝える・届けるのはもちろんのこと、「書く」「描く」という行為を、自らと対峙する時間として味わってみるのもいいものです。
絵だけではなく、添える文字にも気を配りたいという人におすすめなのが、道具選び。毛筆や筆ペン、万年筆やマジックなど、筆記具や紙によって異なる風合いを醸し出せるのも魅力です。今回、ご紹介する「葦ペン」もそのひとつ。葦(ヨシ)と呼ばれる植物の茎を斜めにカットしたもので、先端に墨や水彩絵の具などをしみこませて用います。「葦ペンは一見難しそうですが、和紙や水をうまく使うと、バリエーションも広がります」と話すのは、「天草唐津十朗窯」の染付師 亀山サ苗さん。筆に水を含ませて和紙にひと塗りし、その上に葦ペンで線を引けばやわらかな線に。乾いた部分に文字を書けばシャープな印象に。描いた部分に後から水を落とせば、水墨画のような雰囲気もつくれます。
金刺潤平さんの手漉き和紙(縦15cm×横10cm)/各170円(税込)/水俣浮浪雲工房
吉村好明さんの葦ペン3本セット(長さ17~18cm、サイズは葦によって若干異なります。)/3,300円(税込)/ペン工房葦村
葦ペンお絵描きセット(長さ17~18cm、サイズは葦によって若干異なります。パレット:6cm×6cm)/2,800円(税込)/ペン工房葦村
亀山サ苗さん(天草唐津十朗窯)による使用例。葦ペンと墨汁、水を使用
(木下真弓)
商品のお問い合わせは「
熊本県伝統工芸館 工芸ショップ匠」まで
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